宇都宮地方裁判所 昭和29年(行)3号 判決
原告 大木正男
被告 栃木県知事
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は請求の趣旨として被告は原告に対し被告が昭和二十七年十二月二十五日附を以て豊田村固定資産評価審査委員会の決定に対する訴願につき為した裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする判決を求むる旨申立て、其請求原因として原告は豊田村に居住するものであるが、豊田村長は地方税法第四百三条により原告の所有土地及び家屋に対し昭和二十七年度に於ける固定資産の価格を別紙目録記載の通り評価し且つ決定し次いで同村備付の固定資産課税台帳に登録したのである。これに対し原告は昭和二十七年十二月十七日豊田村固定資産評価審査委員会に右登録事項を不服とし審査請求を為したところ、同委員会に於て昭和二十八年一月十七日請求却下の審査決定がなされた。そこで原告は更に同年二月二十一日被告栃木県知事に対し訴願を為したところ被告栃木県知事は同年十二月二十五日訴願棄却の裁決を為したのである。しかし前記固定資産価格決定は次の理由により法規に違背し無効である即ち豊田村に於ては(一)土地家屋の評価は固定資産評価基準及要綱に基き評価がなされる筈であるのに、昭和二十七年度の土地につきてはその評価額算出の算式に従わないで旧土地台帳法による賃貸価格に評価倍数を乗じて評価が為された(二)仮りに固定資産評価基準に依拠したとしてもその評価額算出の算式に誤りがある(三)固定資産課税台帳縦覧期間中に於て土地の一部を台帳より削除したのであるが固定資産評価審査委員会の承認を得てない(四)家屋の評価は他住民に対する固定資産の評価と比較して高額に失するのであつて、他住民の分が前年度より半額以下に低減されているのに原告の分は漸やく一割強を減ぜられているのに過ぎない、しかも固定資産税台帳縦覧期間中に価額の訂正が行われているのは違法である(五)豊田村長は固定資産の価格を決定するもので評価を為す権限はない筈であるのに固定資産の評価を行つたが、仮りに豊田村村長が固定資産評価委員であつたとすれば地方税法第四百六条第一項の二号に違反する。以上の次第で豊田村村長の為した土地及び家屋の固定資産課税台帳の登録事項は不法であるに拘らず豊田村固定資産評価審査委員会は原告の審査請求を却下し、被告は右に対する原告の訴願を棄却したのである。従つて被告の訴願棄却の裁決は当然取消さるべきであるので本訴請求に及ぶと陳述した。(立証省略)
被告指定代表者は主文同旨の判決を求め答弁として、原告の請求原因中原告が豊田村の住民である点、原告の所有土地家屋につき豊田村村長が固定資産の評価を為し且つ価格の決定を為し固定資産課税台帳に登録した点、審査請求その却下の点、訴願その棄却の点は認めるがその他の点は否認する。土地の評価については豊田村に於ても地方税法第三百八十八条第二項第二号による固定資産評価基準が定められていて、右基準の第一章第二節の三に従えば農地の評価は農地の評点数に評点一点当り価額を乗ずることになつているのであるが、昭和二十七年度に於ては農地の評価は旧土地台帳法による賃貸価格に評価倍数を乗じ計算されているのであるので前記基準による評価とは言い得ない。しかし元来固定資産評価基準は固定資産の評価に関する技術的援助として自治庁長官が市町村長に対し示すものであることは前記法条の規定する通りであつて、法的拘束力はないものと解されている。従つて固定資産の評価に当り固定資産評価基準によらなかつたとしてもこれを以て違法の措置にはならない。次に原告は土地評価の算式に誤りがあると主張するが、前記の通り豊田村の評価は固定資産評価基準によらなかつたのであるから、その基準が示す評価額算出の算式に合致しないのは当然である。次に豊田村に於ては原告所有の土地につき固定資産の価格を固定資産課税台帳に登記した後縦覧期間中右土地の内原告が豊田村の中学校敷地として豊田村に売渡した分につき誤記としてこれを削除したことは事実であるが、勿論固定資産課税台帳の登録事項は原則として訂正はできない。しかし誤記であつて且つその訂正が納税者にとつて不利益とならない事項については自から訂正することは禁止されているものとは解されない。次に原告所有の家屋の固定資産価格は高額に失すると原告は主張するが、原告所有の家屋については豊田村に於ては固定資産評価基準により評価されたもので、例え前年度と比較し他納税者の評価との比例に相違があるとしてもこれを以て直に不当であると為すことはできない。なお右家屋の固定資産の価額を固定資産課税台帳の縦覧期間中訂正したことは事実であるがそれは原告に利益に訂正されたもので前述の通りこの訂正は差支ないものと解する。次に固定資産価格の決定は地方税法第四百三条第一項の規定により市町村長が行うのであるが、価格決定の前提として為される評価は固定資産評価員が行うのが原則である。しかし市町村長が評価員の職務を執行することがあるが、その場合は地方税法第四百六条第一項第二号の適用はない。豊田村に於ては村長中田邦太郎は固定資産評価員ではなく村長として評価を行つたものである。以上の次第であるので原告の請求は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告は豊田村に居住しているが、豊田村長が地方税法第四百三条により原告の所有する土地及び家屋に対し昭和二十七年度に於ける固定資産につき評価を為し別紙目録記載の通り価格の決定を為し固定資産課税台帳にこれを登録したこと、これに対し原告が昭和二十七年十二月十七日豊田村固定資産評価審査委員会に右登録事項を不服として審査請求を為したところ同委員会は昭和二十八年一月十七日請求却下の審査決定を為し、これに対し更に同年二月二十一日被告栃木県知事に訴願を為したところ被告栃木県知事は同年十二月二十五日訴願棄却の裁決を為したことは当事者間に争がないのである。よつて右裁決が原告主張の如く無効であるかどうかを判断することとする。
第一、固定資産評価基準及び要綱の点
原告は豊田村長は土地家屋の評価を為すに当り固定資産評価基準及び要綱に基き為されてないと主張するのであるが、豊田村に於て地方税法第三百八十八条に規定された固定資産の評価基準が定められていることしかも土地については昭和二十七年度に於て評価を為すに当り右評価基準に従わないことも当事者間に争がない。しからば豊田村長の為した原告所有の土地に関する固定資産の評価並に価格の決定は違法たるの観がある。元来固定資産の評価の適正と均衡とを確保することは固定資産課税上の第一条件であるので、さればこそ地方税法第三百八十八条に於て自治庁長官をして市町村長に対し固定資産の評価の基準を示すべきことを命じているのである。しかし立法問題は別として成文の解釈上はこの指示は固定資産評価上の技術上の援助であつて市町村長に対し拘束力を帯有するものでないことは自ずから明かであると謂わねばならない。しからば豊田村長が固定資産評価基準がありながらこの基準に従わず、別途の方式に従つたとしてもこれを以て違法なりと為すことができない。勿論固定資産評価基準の評価額算出の算式と異なることは当然である。
第二、固定資産課税台帳縦覧期間中の台帳登録事項の訂正の点
次に原告は豊田村長は固定資産課税台帳縦覧期間中に於て土地の一部を台帳より削除したと主張するが、この事実は被告の認めるところである。この点についても固定資産課税台帳の登録事項を法が規定する場合でないのに訂正することは許されないのであるので、これまた豊田村長の為した原告所有の土地に対する固定資産の評価及びその価格決定は無効の観あるも、固定資産課税台帳の登録事項は絶対に訂正を為し得ないものではない。即ち登録事項が誤記又は計算違或は書損に関するが如き場合であつて、しかもその訂正が納税義務者である固定資産の所有者に不利益を与えない訂正については、これを禁ずる必要は毫もなく勿論固定資産評価審査委員会の承認の要ないものと謂わざるを得ないのである。ところが豊田村長の為した前記登録事項の削除が原告に不利益を与えるものでなく且つ全くの誤謬であることは証人清水多喜雄の証言(第一回)等により明かであるので原告の主張は採用の限りでない。
第三、固定資産中家屋の評価が高すぎる点
原告は原告所有固定資産中家屋の評価は他住民に比して高きに過ぎると主張するのであるが、成立に争ない甲第二号証の一(家屋課税台帳川島秀一の分)検証の結果等によれば、訴外川島秀一の固定資産中家屋の評価については昭和二十六年度は金四十三万四千九百四十円で昭和二十七年度は金二十万五千三百九十七円であるのに、原告のそれは金二十万二千八百六十三円に対し金十七万千四百九十九円であることが認められる。しかし原告の固定資産中家屋の評価が昭和二十六年度に比し昭和二十七年度が訴外川島秀一その他の村民との比較に於て高額であつたとした場合一応不当に感じられないこともないが、仔細に考えれば単にそれだけでは誤謬であつて不当であり違法であることは断定し難い。即ち原告所有の家屋の区分に前年度に比し増減のあつたことの有無も不明であり、一般的に農業用併用住宅と普通住宅を所有する者としからざる者、土蔵所有の有無或はその棟数の相違等により直に前年度との比較に於て同率の増減を保証し難き事情もあることが察せられるのであるし或は原告にかかる前年度の評価に誤りがあつたことも考えられるので左様な評価の基礎となる各種の事実を明確にした後において或は評価の誤違も発見されることもあり得よう。尤も証人清水多喜雄の証言(第二回)によれば原告に対する分に過誤はなかつたようである。いづれにしても、原告の主張はその立証に於て不充分たるを免れない。次に原告所有の家屋についても固定資産課税台帳縦覧期間中に価額の訂正が行われたと主張するがこの点も被告の認めて争わないところであるが、第二の説明と同一の理由によりこの点に関する原告主張は認め難い。
第四、豊田村長と固定資産の評価の点
原告は豊田村長は固定資産の価額の決定はするが評価は為し得ないと主張するが、豊田村に於ては固定資産評価員は置かずに、地方税法第四百四条第四項により豊田村長自身評価員の職務を執行したものであることは証人中田邦太郎の証言により明かであるので、勿論同法第四百六条第一項の二号に違背するものではない。豊田村長が固定資産の評価を為したことは毫も違法と称すべきでないのでこの点を攻撃する原告の主張は採用に価しない。
以上説明の通りであるので豊田村長の為した前記固定資産の評価並に価格の決定は違法と為し難い。従つて前記豊田村固定資産評価審査委員会の審査請求却下も被告の訴願棄却も違法とは謂い得ないので、原告の本訴請求は失当として棄却は免れない。訴訟費用は敗訴原告の負担とし主文の通り判決する次第である。
(裁判官 岡村顕二)
(目録省略)